名古屋地方裁判所 昭和41年(行ウ)69号 判決 1969年4月05日
原告 宇助興産株式会社
被告 半田税務署長
訴訟代理人 松沢智 外四名
主文
一、原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について、被告が昭和四〇年六月二九日付をもつてなした更正処分(但し、昭和四一年八月一二日付名古屋国税局長の裁決によつて一部取消がなされた後のもの)は、所得金額五、六三四、四〇〇円、法人税額一、八七八、二七〇円を超える部分につき、これを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
(原告)
主文同旨の判決を求めた。
(被告)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(請求原因)
一、原告は金融業を営む株式会社であるが、昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下、「本件((係争事業))年度」と称する。)において法人税法上の同族会社であつた。
二、原告は、本件年度の法人税につき、法定の申告期限内に、所得金額二、〇九二、〇五二円、法人税額五九〇、三六〇円とする確定申告書を被告あてに提出し確定申告をした。
三、被告は、原告の右確定申告につき、昭和四〇年六月二九日付をもつて所得金額一〇、一二〇、九八九円、法人税額三、五八〇、七八〇円とする旨の更正処分を行い、右更正通知書は同月三〇日原告に送達された。
四、原告は、右更正処分につき、昭和四〇年七月二九日訴外名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同国税局長は右請求の一部に理由があると認め、同年八月一二日付をもつて前記更正処分の一部を取消し、所得金額九、九七七、八〇一円、法人税額三、五二六、四五〇円とする旨の裁決をなし、右裁決は同月三一日原告に通知された。
五、しかしながら、被告のなした前記更正処分は、前記のとおり名古屋国税局長によつて一部取消がなされた後においても法人税法の解釈、適用を誤つて、原告の所得金額ならびに法人税額を過大に決定したものである。
原告の本件年度における法人税については、所得金額五、六三四、四〇〇円、法人税額一、八七八、二七〇円が正当であるから、被告のなした前記更正処分は右金額を超える部分について違法である。
よつてその部分の取消を求めるため本訴に及ぶ。
(被告の答弁)
請求原因第一ないし第四項を認め、同第五項を争う。
(被告の主張)
一、本件年度の審査処分における所得金額の内容は次のとおりである。
1、原告の申告所得金額 二、〇九二、〇五二円
2、右に加算したもの
(イ) 受取利息計上もれ 一、三九〇、六八三円
(ロ) 債権償却特別勘定否認 二、七一一、九五六円
(ハ) 寄附金の損金算入限度額超過額 三、七八五、九五九円
(ニ) 所得税額の加算もれ 八、一二〇円
小計 七、八九六、七一八円
3、右1から減算したもの
申告による貸倒引当金繰入限度超過額の認容 一〇、九六九円
4、差引所得金額(1+2-3) 九、九七七、八〇一円
二、受取利息計上もれについて
(一) 被告は、原告が本件年度において貸付金に対する約定未収利息を計上していないものがあつたので、右年度における「収入すべき金額」に脱漏があるものと認め、これについて受取利息計上もれと認定して金一、三九〇、六八三円を否認したものであり、その内訳は次のとおりである。
受取利息計上もれ額の計算
貸付先氏名
<1>貸付元本
<2>係争年度における貸付期間
<3>約定利率
<4>(<1>×<2>×<3>)受取利息計上もれ額
村瀬のぶ
三、二五〇、〇〇〇円
三六六日
三九、一、一
三九、一二、三一
日歩七銭
八三二、六五〇円
戸谷賢一
六三〇、〇〇〇
三六六
三九、一、一
三九、一二、三一
〃
一六一、四〇六
水野正隆
一、八二四、〇〇〇
二八
三九、一、一
三九、一、二八
〃
三五、七五〇
〃
一、五二四、〇〇〇
三三八
三九、一、二九
三九、一二、三一
〃
三六〇、五七八
万龍ステンレス
六四、二六〇
二
三九、一二、三〇
三九、一二、三一
〃
八九
福田久男
一〇〇、〇〇〇
三
三九、一二、二四
三九、一二、二六
〃
二一〇
計
―
―
―
(二) 原告は、いわゆる街の金融業者(高利貸)であつて貸金を主たる業として営んでいる法人であるが、原告等一般の金融業者の貸付金に対する金利は、常に利息制限法に定める利率を、はるかに超えた高利率により貸付が行なわれている実情にある。
これを経済的実態より観察すれば、貸付金の元本は自己資本のみでは賄いきれないので、他からの借入に依存していること、また貸付先の大部分が、銀行等の金融機関から借りることの出来なくなつた資金窮乏の中小業者であること等を背景としているので、金融業者は、元金の確保と利益の追及を図るため、必然的に債権額を上廻る担保または保証を求める一方、常に利息制限法を無視した高利率により貸付けを行ない、倒産等による不測の損失に備える等の配慮をなしつつ、より利益を確実ならしめるようにしている実情にある。このように原告等金融業者の利益追及の実態は、利息制限法とは無関係に、寧ろこれを無視して行なわれているものである。
しかして、利息制限法所定の利率を超過する部分は、単に同法上無効であるというだけに止まり、任意に支払えば返還を請求し得ない性質のものであつて、経済的には当然無価値のものではない。すなわち経済的取引においては、当事者がその取引の総てについて無効とか違法といつた法的評価の結果を予見して行動する保証はないのであつて、利息債権の場合といえども、通常の債権と余り変りはなく、現実の実相は約定どおりの金額が取立てられ、また債務者の方でも約束であるから支払つてゆくというのが一般の実情である。
(三)(イ) ところで、経済法である税法上の「所得」の概念は、もつぱら経済的に把握すべきであり、税法は一定期間内に生じた経済的利得を課税の対象とし、担税力に応じた公平な税負担の分配を実現しなければならないので、所得の発生原因たる債権の成否とは無関係に、いやしくも納税義務者が経済的にみて、その利得を現実に支配管理し、自己のためにこれを享受しうる可能性の存する限り、課税の対象たる所得を構成するものと解すべきである。
(ロ) そこで本件をみると、被告が更正処分をなした受取利息(利息制限法違反の約定によるもの)計上もれは、原告が貸付先に対し、貸付金に対する利払期到来後の利息債権を有し、権利としても確定しているのであつて、右受入れについて、絶えず貸付先に請求していたところである。
一方、借主の方も、経済的困難を打開するため仕方なく利息制限法超過の利息約定をなしたものである。
この約定は、法律的には超過部分につき無効であるが(したがつて、法律上強制実現の保障を受けられないとしても)、原告が過去において制限超過の利息を収受しており、また本件未収利息計上もれの貸付先についても、担保をそれぞれ充分に徴しており、したがつて、取立不能とは言えず、他面担保が設定されてあることと、前記経済的背景等を顧慮すると、借主においても支払う意思・能力がなかつたとは言えない。
したがつて、原告が、履行期の到来した制限超過の利息債権を取得したときは、現実に支配管理し、自己のために享受しうる可能性のある経済的利得が発生したものと解され、これが課税所得金額を構成するものである。
(四) そして、特に取立不能と認められる特段の事情がない限り、課税所得を構成すると解すべきものであり、債権者において債務の免除の意思表示をするか、事実上取立不能に帰したときは、その事実が確定した日の属する年度において始めて収入すべき所得がなくなつたものとして「損金」として計上しうればよく、この点、被告が算定計上した本件未収利息については、債務の免除をしたものではなく、また取立不能に陥いつたものでもないものである。
(五) 仮りに、利息制限法所定の利率を超過する利息の約定は無効であるから益金に計上すべき未収利息は、制限利率によつて算出した金額に限るべきものとして、法の保護を与えるものであると仮定すれば、弱者の立場にある借主からは常に高利で利息を収入するのに、一方所得については利益なしとして課税の対象とはしない結果を生じ、結局、法を無視したものだけが得をするということになり、そのため、事実上租税を逋脱する傾向が著しく多くなり、従つて、適正な課税が行なわれなくなつて、租税負担公平の原則にも反することになろう。
三、寄附金の損金算入限度額について、
(一) 原告会社の性格
原告は、資本金二五、〇〇〇、〇〇〇円の金融業を営む法人で、その資本構成割合については、本件年度において、原告会社の代表者である訴外中村卯助一族が有する株式が全体の六三パーセントを占める旧法人税法第七条の二に規定する同族会社である。
(二) 原告会社と貸付先との特殊関係について
I 日章実業株式会社について
訴外日章実業株式会社(昭和三九年三月三一日現在の資本金は三、二〇〇、〇〇〇円、以下訴外日章実業という)は、その代表取締役が、原告会社の代表取締役である訴外中村卯助であり、また、主だつた株主においても、ほとんど原告会社の株主と同一人で構成されている同族会社である。訴外日章実業は次の経過により原告会社と特殊な関係になつたものである。
1、自動車用品部
かねて、原告会社の融資先であつた訴外日洗商事株式会社が事業に失敗して倒産したため、原告会社が右貸付金の対価としてその事業を取得したものであるが、その頃、別に原告会社代表者である訴外中村卯助の主宰する休業中の訴外臨海タクシー株式会社に、右事業を譲り受けさせて、その名称を日章実業株式会社と変え、および事業目的を変更させて営業を始めたものである。
2、砕石部
原告会社は、融資先であつた訴外上野幸之助が、昭和三八年六月、経営不振に陥つたことにより、その事業を吸収させるため同人の右債務を前記訴外日章実業に引受させると共に、その事業を吸収させ、訴外日章実業の砕石部としたものである。
II 共栄自動販売機株式会社について
訴外共栄自動販売機株式会社(昭和三九年一一月七日現在の資本金一、〇〇〇、〇〇〇円)においても、前記訴外日章実業と同じく、代表取締役中村卯助の主宰する同族会社である。
原告会社の融資先であつた訴外共栄機器株式会社(以下訴外共栄機器という)が、昭和三八年末に経営不振となつた際、訴外共栄機器の工具器具類を、原告会社がその貸付債権の代物弁済として取得し、改めて、その工具器具類を訴外共栄機器に賃貸していたところ、昭和三九年に至り、右訴外共栄機器が破産するに至つた。そこで、昭和三九年一一月に、原告会社の代表者中村卯助は原告会社と姉妹会社であり、かつ、中村卯助の同族会社である訴外共栄自動販売機株式会社を設立させ、右訴外共栄機器の事業を承継させたものである。
III 高嶋鉄夫について
原告会社の融資先であつた訴外高嶋鉄夫は、昭和三九年頃に至つて事業不振となつたので、原告会社の企業系統配下に入れ、原告会社の従業員を訴外高嶋鉄夫方に派遣して事業の監督指導に当らせていた。また、後日、原告会社の代表者である訴外中村卯助の長男を訴外高嶋鉄夫の長女と婚姻させる等、特殊な関係があつた。
IV こうしてみると、原告会社の貸付先であるこれ等会社の設立関係、あるいは貸付けの事情には、只単に何の関係もない一般の相手先に対する貸付けの場合と異なつた、特殊な関係が認められる。
(三) 否認の内訳
被告が寄附金の損金算入限度額超過額として否認した三、七八五、九五九円の内訳は次のとおりである。
一、寄付金相当額算出の根拠
貸付先氏名
貸付元本
原告計上利息額
被告認定利息額
差引寄付金相当額
<1>金額・積数
<2>利率
<3>(<1>×<2>)金額
<4>利率
<5>(<1>×<4>)金額
<6>(<5>-<3>)
日章実業 (株)自動車用部品
円
三、二三三、九五〇、五一〇
日歩三銭
円
九七〇、一八五
日歩七銭
円
二、二六三、七六五円
円
一、二九三、五八〇
右同砕石部
六、〇三五、八三九、五六五
右同
一、八一〇、七五一
右同
四、二二五、〇八七
二、四一四、三三六
共栄自動販売機(株)
一七、八七八、一〇〇
右同
五、三六三
右同
一二、五一四
七、一五一
高嶋鉄夫
四二、九一二、〇〇〇
日歩四銭
一七一、六四八
右同
三〇〇、三八四
一二八、七三六
計
―
―
二、九五七、九四七
―
六、八〇一、七五〇
三、八四三、八〇三
二、寄付金の損金算入限度額超過額の計算
区分
金額
摘要
<1>所得金額
円
六、一八三、七二二円
旧法人税法施行規則第七条第六項
<2>損金計上の寄付金額
三、九四三、八〇三
原告の決算計上額被告の認定による寄付金相当額一〇〇、〇〇〇円+三、八四三、八〇三円(一の<6>の計)
<3>右の計
一〇、一二七、五二五
<1>+<2>
<4>右の百分の二・五相当額
二五三、一八八
旧法人税法施行規則第七条第一項
<5>期末資本金額
二五、〇〇〇、〇〇〇
<6>右の千分の二・五相当額
六二、五〇〇
旧法人税法施行規則第七条第一項
<7>損金算入限度額
一五七、八四四
右同(<4>+<6>)×1/2
<8>損金不算入額(超過額)
三、七八五、九五九
旧法人税法第九条三項、同法施行規則第七条<2>-<7>
(四) 被告は、原告会社が、訴外日章実業株式会社外二件に対する日歩三銭(訴外高嶋鉄夫に対しては日歩四銭)で貸付けた行為につき、右貸付行為を容認した場合においては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるので旧法人税法第三〇条第一項を適用し、その行為計算を否認したものであり、しかも右行為は貸付先に実質的に特別な経済的利益を供与したものと認められるので法人税法上寄付金として取扱い限度超過額を損金不算入として更正したものである。
I 同族会社の行為計算の否認(旧法人税法第三〇条第一項)を適用した理由
(1) 元来法人税法は、法人が純経済人として経済的に合理的に行為計算を行うべきことを前提として、かような合理的行為計算に基づき生ずべき所得に対し、課税し、租税収入を確保しようとするものである。
したがつて、法人が通常経済的に合理的に行動したとすればとるべきはずの行為計算を法人税回避もしくは軽減の目的で、ことさらに不自然な行為計算をとることにより、または、直接法人税の回避軽減を目的としないときでも経済的合理性を全く無視したような異常不自然な行為計算をとることにより、不当に法人税を回避軽減したこととなる場合には、課税上かような行為計算を否認して、経済的に合理的に行動したとすれば通常とつたであろうと認められる行為計算にしたがつて課税を行ない得ることは当然である。
しかるに、同族会社は、通常利害相反しない小数同族株主が過半数以上の株式数または出資数を所有しているため、非同族会社のごとく株主一般と経営者との利害対立により自ら経営者による恣意的な行為計算が抑制されるということがなく、同族会社においては小数の株主など出資者によつて会社の行為計算を自由になし得る可能性が強く、かかる恣意的行為計算のため法人税の負担を不当に免れしめるおそれがあるのでこのような結果を防ぐために旧法人税法第三〇条が設けられたものである。
したがつて、同条第一項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、もつぱら経済的実質的見地において当該行為計算が経済人の行為として不合理不自然なものと認められるかどうかによつてこれを判断すべきである。
また、同項に該当するか否かは、当該会社の企業の諸条件が同一もしくは類似する他の法人における同一もしくは類似の行為計算と比較し、その比較法人において、一般的になされている行為計算を著しく超えるものであるか否かによつて判断されるべきである。
(2) 原告会社のなした行為計算は前記条項に該当するから、右行為計算を否認すべきである。
原告会社は、原告と特殊な関係を有する貸付先に対してのみ、その約定利率を日歩三銭(訴外高嶋鉄夫に対しては日歩四銭)と計上しているもののほかは、本件年度における原告会社が他の一般貸付先に対する貸付金を調査したところ、利率別件数は日歩六銭一件、日歩七銭二〇件、日歩八銭九件、日歩九銭一件、日歩一〇銭三一件であることが認められる。これらをみても日歩一〇銭と日歩七銭が圧倒的に多く、したがつて係争年度期間中における取引状況によれば日歩七銭の利率による取引が比較的多数であつたことが窺われる。
しかも、原告会社と特殊な関係にある訴外日章実業株式会社外二件を除いては日歩三銭(訴外高嶋鉄夫に対しては日歩四銭)で貸付けをした事実はない。
また、原告会社と同業である街の一般金融業者(高利貸)においては、一般に通常金銭消費貸借を締結する際日歩三銭で貸付けをしているような事実は通常あり得ないところであり、普通一般の取引であれば借入れの際相当な担保の提供、世間一般の金利、不履行の場合の処置の確実性などを配慮して高利で貸付を行うものであり、原告会社と同業種法人の当該係争年度前後における一般的金融状況を調査してみると次表のとおりであつて(この表は、法人税確定申告書に添付されてあつたもののうち、原告会社となるべく同規模の、しかも近隣に所在する主として青色申告法人の一一例を選出してその正確性を期したものである。)、金利水準は件数において日歩一〇銭ないし二〇銭が最も顕著である。
貸付金利率比較表<省略>
本件につき、一般にいわゆる「高利貸」と称されるところの金融業を目的とする原告会社がその特殊関係を有する取引先にのみ、通常の取引では予想されない金利で貸付けをしたことは正に経済的、実質的にみて経済人の行為としては不合理、不自然なものと認められる。
そこで、被告は、もし原告が取引先に特殊な関係がないとすれば、原告会社の一般取引状況からみて他の一般顧客に対する貸付金利である少くとも日歩七銭以上で貸付けたことが認められるので、所得の計算を日歩七銭としたものである。
II 旧法人税法第九条第三項(寄付金の損金不算入)を適用した理由
以上の事実からみて、原告会社は自己の同族関係者に特別な利益(通常の取引形態と比較して、異常と認められる低利率の金利との差額)を与えたものと認められるのであるから、それは旧法人税法第九条第三項の寄付金として取扱われるべきものである。
即ち、旧法人税法第九条第三項にいう寄付金とは、一方が相手方に対して任意に、しかも反対給付を伴わずにする財産的給付をいい、一般的に考えられている神社、仏閣、慈善事業あるいは学校などに対するものに限られず、法人がその所有する財産を著しく低い価額で譲渡した場合で、かつ時価との差額を相手方に贈与するためにこれを行なつたものと認められる場合、その差額を本条にいう「寄付金」として取扱われるものであるとされるものであり、しかも本件のような低利息融資についても法人税法の解釈上当然に一種の寄付金として適用されるべきものと解すべきものである。(法人税基本通達昭和二五年九月二五日直法一―一〇〇、七七参照)
けだし通常一般の取引形態からみれば、原告会社は当然得べき利息相当額の利益を失なうに反し、原告会社と特殊な関係にある同系列の借入会社は右利息相当額を免がれ同額の利益を得ることになる関係にあるから、したがつて本件のごとく経済的利益を供与したと認められる行為は、これを法律にいう寄付金として取扱うこととしたものである。
右通達の趣旨は現行法人税法第三七条第五項、第六項においても明文上確認されて現在に至つているのである。
(被告の主張に対する答弁及び原告の主張)
一、被告主張の一のうち、2の(イ)(ハ)を争い、したがつて4を争うが、その余は認める。
二、同二のうち、「受取利息計上もれ額の計算」が、被告主張のとおりであることは認めるが、被告の法律上の主張を争う。即ち、
(一) 右計算において被告が主張する利息約定は明らかに利息制限法に違反する。したがつて、同法の制限を超える部分は無効であるから、この場合益金に計上すべき未収利息は前記貸付金につき同法による制限利率によつて算出した左記金額によるべきものであつて、被告のした前項の金額による利息の認定は制限利率によつて算出した金額を超える部分につき不当であつて、その部分は取消されるべきである。
債権者氏名 制限利率 同上による利息額 被告主張の未収利息金額のうち上記を超えるもの
村瀬のぶ 年一割五分 四八七、五〇〇円 三四五、一五〇円
戸谷賢一 年一割八分 一一三、四〇〇円 四八、〇〇六円
水野正隆 年一割五分 二三二、〇四二円 一六四、二八六円
計 五五七、四四二円
(二) その理由は次のとおりである。
(1) 法人税の計算において、収益の発生の認識基準をいわゆる「権利確定主義」によるものとされるのは、金銭についていえば、それが現実に支払われて現金を入手する時期まで待たなくても、それが法律上の請求権として行使しうべきものとなつたとき権利として確定し、それが法律上の権利として確定していることによつてその名目金額に相当する財産的価値があるものとして概ね事実に合致するからである。
しかるに、利息制限法による制限利率を超過する部分の利息約定は無効であつてその部分については法律上の利息債権は存在しない。
(2) また法人税法上益金の発生として認識されるべき請求権の確定という場合の請求権は必ずしも他の法律との関係で完全に適法有効なものであることを要しないとしても、その法律上の効果に疑いのある請求権を完全に適法、有効に成立したそれと同様にその名目金額によつて評価することが許されるためには、その請求権が事実上行使し得る可能性が大であり、かつそのことによつて経済的利益を現実に入手しうる可能性が明らかでなければならない。
ところで前記三名の債務者のうち村瀬のぶは、原告との利息約定の効力を争い、制限超過の利息を任意に払う意思はなかつたし、戸谷賢一、水野正隆は事業に失敗して元本の弁済さえ支払不能であつて、前記約定にしたがつて利息を支払う能力も意思もなく、しかもかかる場合原告はこれらの債務者に対し右制限超過部分についてその支払方を強制する法律上の手段を有していなかつたものである。
したがつて、原告は昭和三九年末において右制限超過部分につき何らの経済的価値を有しなかつたのであるから、これを益金に加算したのは違法である。
(3) 仮に原告が昭和三九年末までに約定利率によつて利息金の支払いを受けたとしても元本未済部分がある限り、利息制限法の制限超過部分は法律上当然に元本に充当されることになりその部分は益金を構成しないことになる。現実に支払いを受けても益金を構成しないものが単に利息約定に基づく事実上の請求権があるというだけでその算出金額どおりの益金を構成しないことは明らかである。
(4) 被告主張二の(五)につき、
利息制限法の制限を超える部分の約定利息はそれが未収金にとどまる限り所得を構成しないが、右部分につき現実に支払いがなされるならば債権者の所得として課税されることまで否定するわけではないから、右は理由がない。
三(一) 被告主張三の(一)ないし(三)の事実及び計算関係を認める。
(二) 同(四)I(2)の事実を否認し、その法律的主張及び(四)のIIの主張を争う。
(三)(1) 被告主張三の(三)によると日章実業株式会社外二件の貸付金利が他の一般の場合よりも低率となつていることは、いわゆる系列企業間における協力の形態として異常でも不自然でもない。
また、各債務者の経営状態と返済能力とを総合的に検討して、債務者の事業の再建に協力することによつて原告の債権の保全と長期間をかけての回収を図つたものであつて経済的にみても合理的かつ合目的な理由によるものであつて、これらの行為は否認の対象とすべきではない。
(2) 原告が昭和三九年中に貸付金の資金を獲得するために銀行から借入れをし、そのために支払つた利息は年間を通じて日歩三銭弱であつた。したがつて、原告の日章実業株式会社外二名の債務者に対する日歩三銭または日歩四銭の約定利息による貸付は原告の資金コストを上廻る割合によるものであり、さらにこれらの債務者に対する未収利息は昭和三九年に元本の額に繰入れられて昭和四〇年以降はその部分につきさらに利息が付されている。
したがつて、原告の右金利による貸付は「不当に法人税の負担を減少させる」行為ではないものと言うべきである。
(3) 旧法人税法第九条第三項にいう寄付金とは、法人が相手方に対し、直接法人の事業と関係なく(即ち、法人の直接の収益の増加を期待したものではなく)かつ、対価の授受もなくて無償で贈与した金銭その他の財産的給付をいうものと解すべきである。
換言すれば、法人と相手方との間に資産の譲渡に関する契約が現実に行われ、それが贈与契約の履行としてなされたか、あるいはこれと同一視することのできる状態で行われた場合に限定されるのである。
しかして、本件のように相手方に支払能力の有無を検討して原告が債権者として損をせず、しかも元本債権の回収も可能と見込まれる程度に利息約定をした場合において、これを税務署長が否認してより高率によるべきであると主張したとしても原告と相手方との間には約定利息と税務署長の認定した利息との差額を無償で供与する趣旨の合意が存在せず、そのような合意があつたものと同一視すべき事情も存在しない。
(4) 本件における前記四名の債務者に対する貸付金について、利息制限法上有効な約定利率は年一割五分である。従つて被告がした日歩七銭の利率は同法の制限に違反する高利である。かかる法律上無効な高利率による利息は、いかに税務署長の認定にかかるとはいえ、法律上「取得すべき」ではない利息である。法律違反の利息の徴収を国民に強制し、これを徴収しないときはそれに相当する額の贈与すなわち法人税法上の寄付金があるとする被告の認定は違法であることが明らかである。
(5) また仮りに原告が昭和三九年中において、被告認定の利率によつて、前記四名の債務者から利息を徴収したとしても、これらの債務者に対する貸付金元本が残存する限り、弁済を受けたもののうち利息制限法の制限超過部分は法律上当然に元本に充当されて、原告にとつて益金を構成しない。現実に弁済を受けても益金とはならないものが被告の認定利率によるべきであるというだけのことで、益金を構成する受取利息(未収利息としての)となるはずはない。本件において、被告が更正処分において認定したような収受すべき利息は存在しないし、旧法人税法第九条第三項の寄付金は存在しない。
(6) 以上のとおり前記四名の債務者にかかる寄付金三、八四三、八〇三円(被告主張三の(三))の認定は取り消されるべきものであり、係争事業年度中に原告が支出したその他の寄付金一〇〇、〇〇〇円は法人税法施行規則第七〇条の限度額の範囲内であるから、この分は全額損金算入が認められるべきものである。
従つて被告の認定にかかる三、七八五、九五九円を寄付金損金算入限度額超過額として原告の申告所得の額に加算した処分は取消されるべきである。
四、税額の計算
被告のした本件更正処分は、未収利息計上もれの加算は五五七、四四二円の限度(前記二の(一))において、寄付金損金算入限度額超過額の加算はその全額三、七八五、九五九円(前記三の(6))において違法であるからこの限度で取り消されるべきである。
従つて原告の係争事業年度における正当所得金額は、被告の認定にかかる所得金額九、九七七、八〇一円から前記違法認定にかかる金額の合計額四、三四三、四〇一円を差し引いた額五、六三四、四〇〇円である。
右正当所得金額に法人税法第一七条、租税特別措置法第四二条の規定を適用して算出した法人税額一、八八六、三九六円から、原告が納付した所得税額八、一二〇円を差し引いた額一、八七八、二七〇円が係争事業年度の正当な法人税額である。
また右の正当法人税額と原告の確定申告にかかる法人税額五九〇、三六〇円との差額一、二八七、〇〇〇円(千円未満切捨)に五%を乗じた額六四、三五〇円が正当な過少申告加算税となる。
従つて被告のした本件更正処分は、所得金額において五、六三四、四〇〇円、法人税額において一、八七八、二七〇円を超える部分は取り消されるべきものである。
(原告の主張に対する被告の反論)
一、原告主張二(一)の計算関係がそのとおりであることを認めるが、二(二)(2)の事実を否認する。
また、仮に右のような事実があつたとしても前述の「街の金融」の実態と、債権者として実際に回収する可能性の極めて高度であるという現実を考え併せると、単に債務者の右の意思表示のみに止まる場合とか、あるいは事業の一時的な衰退のみによつて、直ちに債権者たる原告において経済的利得を取得しうる可能性を失つたとみるべきではない。
しかも、村瀬のぶ、戸谷賢一については翌事業年度以後において約定利息である日歩七銭分の利息はもちろん元本も完済され支払われている。
従つて、未だ右の程度では特に取立不能と認められる特段の事情があつたものとはいえない。
二、同(二)(3)の主張は失当である。すなわち右の元本に充当されて益金を構成しないことは究極的な法的効果の面をとらえてのことであつて、本件課税が経済的、実質的な面に着目し、債権者、債務者間において現実にその金利が支払われ、若しくはその支払の可能性があり、それが経済上、実質上の見地から税法上の所得と解されればたりるのであつて、原告の右主張は法的効果の面を過大視しているものである。
三、原告主張三(三)(1)につき
右主張は次の理由により失当である。すなわち、
原告会社は法人税法上いわゆる同族会社であり、その実権を掌握しているのは設立当初から現在に至るまで代表取締役である中村卯助である。
ところで、原告会社の一般貸付先の金利の状況は前記のとおりである。したがつて、本件の三銭(四銭)という、原告会社の右貸付事実からみれば、異常不合理といえるほどの低金利で貸付けられた所以は原告会社か同族会社であり、その実権者が中村卯助であつたがゆえであることは極めてみやすい道理である。
この関係は、同族会社がその資産をその役員等に無償または低廉な対価で使用させ若しくは融資した場合と実質的に何らえらぶところがないのである。
したがつて、原告主張のごとき形式的にも実質的にも別個な法人格を有する系列企業間における協力形態とか、事業再建による債権保全のためという場合とは、本件はその基盤を異にするものである。
四、原告主張三(三)(2)につき、
被告は原告の資金コストがいくらかは知らないが、単に資金コストを上廻る金利による貸付ということのみをもつて右貸付が直ちに不当でないとはいえない。
五、同(三)(4)につき、
本件利息が制限を超過したとしても、法的効果が否定されて法は保護しないに止まるだけであり、そのことからかかる利息は取得してはならないというものではなく取得しても差支えないものである。
そのうえ、本件のごとき日歩七銭の金利は、三〇銭を超える場合と異り公序良俗違反性が特に強いわけでもない。
六、原告主張四の税額計算関係がその主張のとおりであることは認める。
(原告)
被告の反論のうち、原告が村瀬のぶ、戸谷賢一について翌事業年度以降において約定利息日歩七銭の利息及び元本を受領したことは認める。
第三、証拠関係<省略>
理由
一、原告が、金融業を営む株式会社であり、本件年度において、法人税法上の同族会社であつて、右年度の法人税につき、法定の申告期限内に、所得金額二、〇九二、〇五二円、法人税額五九〇、三六〇円とする確定申告書を被告あてに提出し、確定申告をしたこと、被告が、原告の右確定申告につき、昭和四〇年六月二九日付をもつて所得金額一〇、一二〇、九八九円、法人税額三、五八〇、七八〇円とする旨の更正処分を行い、右更正通知書が、同月三〇日、原告に送達されたこと、原告が、右更正処分につき、同年七月二九日、訴外名古屋国税局長に対し、審査請求をしたところ、同国税局長が、右請求の一部に理由があると認め、同年八月一二日付をもつて前記更正処分の一部を取消し、所得金額九、九七七、八〇一円、法人税額三、五二六、四五〇円とする旨の裁決をなし、右裁決が、同月三一日、原告に通知されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、被告の主張する原告の本件年度における所得金額の内容について検討することにする。
(一) まず、前記原告の申告所得金額二、〇九二、〇五二円に加算すべきものとして、債権償却特別勘定否認二、七一一、九五六円、所得税額の加算もれ八、一二〇円を有し、かつ、右申告所得金額から減算すべきものとして、申告による貸倒引当金繰入限度超過額一〇、九六九円を有することは当事者間に争いがない。
(二)(イ) 被告は、右申告所得金額に加算すべきものとして、原告の受取利息計上もれ金一、三九〇、六八三円(未収利息)を有する旨主張するので、この点につき判断する。
原告が、本件年度において、訴外村瀬のぶ、同戸谷賢一、同水野正隆、同万龍ステンレス、同福田久男に対し、各貸付金について未収利息債権を有し、右貸付元本の額、貸付期間(利息計算の期間)、約定利率、未収利息の額が被告主張二(一)記載のとおりであることは当事者間に争いがない(なお、本件年度の終了当時、右未収利息の履行期が到来していたものであることについては、原告は、明らかに争わないので自白したものと看做す。)。
(ロ) 原告は、被告の主張する原告の右村瀬、戸谷、水野に対する利息約定が利息制限法に違反し、右違反部分につき、益金を構成せず、したがつて、課税の対象とならない旨主張するので、この点につき考える。
法人税法は、期間損益決定のための原則として、発生主義のうちいわゆる権利確定主義を採用しているものと解され、これは、現実の収入・支出にかかわりなく収入すべき権利または支出すべき義務の確定したときに損益の発生を認識すべきものとする趣旨である。
そして、期間損益の決定を単に会計上の事実行為に立脚した基準にのみ委ねないで、右の建前を採つた重要な理由は、一面において納税者の恣意的判断によつて課税の公平な負担を害される結果にならず、他面においてその基準となる時点が不明確であつて、徴税技術上所得の画一的把握が困難となるのを避けようとする配慮にあるものと解される。
そこで、いかなる時期に右「収入すべき権利が確定した」とみるべきかについては、所得のいかんによつて一様ではないのであるが、権利確定主義が右の要請にこたえるものと理解すると、法人税法上の普通法人の所得(各事業年度の所得)中消費貸借契約に基づく債権については、原則として、右債権の行使が法律上可能となつたときをいうものと解するのが相当である。
したがつて、右消費貸借契約に基づく利息債権のうち、利息制限法所定の利率による約定利息については、その履行期の到来により利息債権が確定し、その確定した年度の益金を構成するものと解されるが、右の利率をこえる部分のそれについては、元来その利息約定が無効であつて、その利息債権について現実に収入された場合はさておき、未収の段階においては、その権利の行使が法律上可能とは言えないから、収入すべき権利が確定したとは認められず、従つて、その段階における年度の益金を構成しないものと解すべきである。
もつとも、被告は、税法上の「所得」の概念は、もつぱら経済的に把握すべきであり、納税者が、履行期の到来した制限超過の利息債権を有するときは、経済的にみて、その利得を現実に支配管理し、自己のためにこれを享受しうる可能性が存するから、課税の対象たる所得を構成する旨主張し、なるほど、「所得」が一定の課税期間内における資産の純増加額をいうものであり、現実に資産の増加をきたしている以上、それが適法行為によるものであるか、不法行為によるもの(いわゆる不法利得)であるかを問わないという意味において、これを経済的に把握すべきことを否定することはできないとしても、このことから右制限超過の利息債権が直ちに所得を構成するとは言えないのであつて、これが所得を構成するためには、納税者の収人となり、法律上納税者に帰属することを要し、この点(収入となるかどうかとか、いつの時点において帰属するか等)の判断にあたつては、法律的観点を離れて純経済的観点のみから把握することは困難といわなければならず、したがつて、右主張はとることを得ないものである。
また、被告は、益金を構成する未収利息は制限利率によつて算出した金額に限るべきものとすれば、弱者の立場にある借主からは、常に、高利で利息を収入するのに、一方、所得については利益なしとして課税の対象としない結果を生じ、不法利得者を適法利得者よりも税法上優遇することになる旨主張するけれども、貸主が不法な利息約定に基づき現実に利息を取得したものと認められるときは、その時点で益金を構成するものと言うべきであるから、右主張は採用できない。
したがつて、原告の村瀬のぶ、戸谷賢一、水野正隆に対する前記被告主張の未収利息金額のうち同人らに対する制限利率による利息額(前記貸付元本の額に村瀬および水野につき年一割五分、戸谷につき一割八分を掛けた金額)を超える部分が金五五七、四四二円であつて(この点は、当事者間に争いがない。)、右超過部分については、前記のとおり原告の右債務者らに対する権利の行使が法律上可能とは言えないから、益金を構成しないものと言うべきである。
よつて、前記被告主張の未収利息金一、三九〇、六八三円のうち右超過部分に相当する金五五七、四四二円については課税の対象から除外すべきである。
(三) 次に、被告は、前記原告の申告所得金額に加算すべきものとして、寄付金の損金算入限度額超過額三、七八五、九五九円を有する旨主張するので、この点につき判断する。
原告が、資本金二五、〇〇〇、〇〇〇円の金融業を営む法人で、本件年度において、原告会社の代表者である訴外中村卯助一族が有する株式が全体の六三パーセントを占める旧法人税法第七条の二に規定する同族会社であること、被告が否認した原告の貸付先、貸付元本(積数)、原告計上利息額(右計上利息の利率は、日章実業株式会社((以下、単に日章実業という。))及び共栄自動販売機株式会社((以下、単に共栄自動販売機という。))について日歩三銭、高嶋鉄夫について日歩四銭である。)が被告主張三(三)記載のとおりであるところ、被告が右利率を日歩七銭として認定計算を行い、前記見出金額を益金として計上したものであることはいずれも当事者間に争いがない。
被告は、右認定計算を行つた理由として、(1)原告が旧法人税法第七条の二に規定する同族会社であること、(2)原告と右貸付先については被告主張三(二)記載のごとき特殊関係を有すること、(3)原告が一般顧客に対し少くとも日歩七銭以上で貸付けたこと、(4)原告が金融業を目的とし、右貸付もその一環として行われたものであること、(5)貸付先において右貸付けにより認定利息相当の利益を取得していること等からみて、右貸付行為を容認した場合においては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる旨主張するので、この点について検討する。
旧法人税法は、同族会社の行為又は計算の否認を定めている(同法第三〇条第一項)が、これは、元来、法人税法においては、法人が純経済人として、経済的に合理的に行為計算を行うべきことを予定し、これを前提として租税収入を確保しようとするものであるところ、同族会社においては、その性格上租税回避行為が容易に行われるところから、同族会社に対する課税を円滑かつ適切に行うために設けられたものであつて、この規定を根拠に、単に一般的な租税負担の公平という見地から、具体的な構成要件の範囲を超えて安易に私人間の行為又は計算の否認が許されると解することはできない。
したがつて、右規定にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、経済的実質的観察において、当該行為又は計算が経済人(企業)の行為として合目的であるかどうか、正常であるかどうか、合理的であるかどうかを基準として判定すべきであつて(右判定にあたつては、一般の企業経営における合理性等と言つた見地を強調しすぎて、当該企業経営における個別的な特殊性を無視することはできないのである。)、同族会社であるからと言つて、この基準を超えて広く行為又は計算の否認が許されるものと解すべきではない。
本件について考えるに、被告主張(1)(2)(4)については当事者間に争いがなく(3)については、成立に争いのない乙第一号証、証人山崎武治の証言によつてこれを認めることができ、(5)については、計算関係が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがないところであるが、当事者間に争いのない被告主張三(二)記載の事実に、証人中川羊二の証言、右証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証、成立に争いのない乙第一号証、原告代表者尋問の結果を綜合すると、
(1) 原告は、本件年度において、被告主張の貸付金について、日章実業及び共栄自動販売機に対し日歩三銭、高嶋鉄夫に対し日歩四銭の利息約定をするに至つた事情は次のとおりであること、すなわち、
(イ) 日章実業自動車用品部について、
原告は、従前の融資先であつた日洗商事株式会社が、昭和三七年九月ころ倒産したので、その際、原告の有する多額の債権を保全し、かつ、これを長期にわたつて回収する方策として、同会社の事業を、別に原告の代表者である訴外中村卯助が主宰する休業中の訴外臨海タクシー株式会社に譲渡させ、その名称を右見出しの通り変更し、右自動車用品部において、事業の再建をすることに協力する趣旨で従来の金利を引下げ日歩三銭にしたものであること、
(ロ) 日章実業砕石部について、
原告は、従前の融資先であつた訴外上野幸之助が、昭和三八年六月ごろ、経営不振に陥つたことにより、同人の右債務を前記訴外日章実業に引受けさせるとともにその事業を吸収させ、訴外日章実業の砕石部としたのであるが、その後、まもなく、右砕石部との間において右(イ)と同様の趣旨で日歩三銭の利息約定をしたこと、
(ハ) 共栄自動販売機について、
原告は、従前の融資先であつた訴外共栄機器が、昭和三八年一二月ごろ経営不振となつた際、訴外共栄機器の工具器具を、その貸付債権の代物弁済として取得し、改めて、その工具器具を訴外共栄機器に賃貸していたところ、昭和三九年に至り、右訴外共栄機器が破産するに至つたので、同年一一月ごろ原告の代表者である中村卯助が訴外共栄自動販売機を設立させ、同会社に訴外共栄機器の事業を承継させたが、前例と同趣旨で日歩三銭の利息約定をしたこと、
(ニ) 高嶋鉄夫について、
原告は、その融資先であつた訴外高嶋鉄夫が、昭和三九年ごろに至つて事業不振となつたので、原告の従業員を訴外人方に派遣して事業の監督指導に当らせるとともに、前同様の趣旨で日歩四銭の利息約定をしたこと、
(2) 原告は、もともと社員間の融資を比較的低金利で行うため発足したもので、社員より借入れ、又は、これに貸付けるにあたつては原則として日歩四銭とする旨の了解があつたこと、
(3) 原告は、本件当時、他の金融業者が日歩一〇銭をこえる高金利で貸付をなしたが、社員に対してはもとより社員以外の者でもたかだか日歩一〇銭の金利であつたこと、
(4) 原告は、本件年度中に貸付金の資金を獲得するために東海銀行その他から借入れたが、そのために支払つた利息は、右年度を通じて日歩三銭弱であつたこと
以上の事実が認められ、右認定を動かすにたりる証拠はない。
右事実によれば、原告が前記貸付先に日歩三銭(高嶋については日歩四銭)の利息約定をするに至つた経緯、原告が金融業として発足した事情及びその実情、ことに本件年度における原告の資金コストが日歩三銭に満たないものであつて、右約定がこれを上廻つていること等の事情を勘案すれば、原告の右利息約定をもつて、直ちに、異常、かつ、不合理・不自然なものとは言えず、したがつて、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」ものと判断することは困難である。
また、被告は、原告と同業種法人の本件年度前後における金利水準が、件数において、日歩一〇銭ないし二〇銭が最も顕著である旨主張し、成立に争いのない乙第五号証の一ないし一一及び前記証人山崎武治の証言は右主張に副うけれども、右判定にあたつては、いわゆるひもつき金融である場合を除いては右資金コストが重要かつ適切な資料と言うべきであるのみならず、前記のとおり一般の企業経営の合理性を強調するのあまり当該企業の実情、特殊性を看過すべきでないから、右主張は採用できない(なお、成立に争いのない乙第二号証によれば、原告は、右貸付先に対し、日歩七銭として未収利息を計上しているが、前掲証人中川羊二の証言によれば、これは、原告の本件年度の翌年度(昭和四一年度)の納税申告書であつて、本件年度の審査請求が棄却されたので、この時点では原告と税務当局との間にいたずらに紛争が生じるのを避けるために右申告に及んだものであつて、右書面によつても前記認定を動かすにたりない。)。したがつて、法人税法上、被告が原告の右利息約定を否認し、その主張のような認定計算をしたうえ、原告に、その差額相当額の利益が発生したものと認め、原告がこれを前記貸付先に提供したものとして、原告の益金に加算することは許されないものと言うべきである。
三、以上の次第で、被告のした本件更正処分は、未収利息計上もれの加算につき五五七、四四二円の限度において、寄付金の損金算入限度額超過額の加算につきその金額金三、七八五、九五九円において違法であるから、この限度で理由がないものというべきである。
そして、これを前提とする税額の計算(原告の主張四記載)については当事者間に争いがなく、これを正当と認められるから、被告のした本件更正処分は、所得金額において五、六三四、四〇〇円、法人税額において一、八七八、二七〇円を超える部分は取消されるべきものである。
よつて、その余の判断をするまでもなく、原告の被告に対する本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田正武 日高千之 八束和広)